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アスフォデロの野をわたる途中で

忘却の彼方にいってしまいがちな映画・音楽・本の備忘録

『シンデレラ』実写版&グリム原案: あなたが最初に触れた木の枝を

『シンデレラ』実写版について、さる飲みの席にておとぎ話の専門家である神奈川大学の村井まや子先生を相手に熱弁を奮ったらしい。(飲むと演説するクセがある、とは友人の指摘)
 

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ディズニー映画でありながら、監督がシェイクスピア劇のケネス・ブラナー、継母役が指輪シリーズのエルフの女王で『エリザベス』で英国と結婚した女王を演じたケイト・ブランシェット、シンデレラ役は『ダウントン・アビー」のリリー・ジェイムズ。
 
シェイクスピアものや『高慢と偏見』のジェーン・オースティン系に目がない私としては、断然見ておかなくちゃ!と『CUT』の記事を美容院で読んだ時からずっと思っていて、男子社会に疲れて魔法の欲しくなったある日、六本木ヒルズのレイトショーへ。
 
 
魔法がとけるSFXも面白かったけど、私はシンデレラのあるセリフにひどく感銘を受けてしまったのです。
 
それは父親(映画では継母を娶った後に亡くなってしまう設定)が外国へ商談に出かける永遠の別れの場面。
「お土産は何がいい? 二人の姉さんはパラソルとレースだったけど」
「それではお父様が旅先で最初に触れた木の枝を」
なぜそんなものを? と訊ねる父親にシンデレラはこう答えます。
「旅の途中、お父様がずっと私のことを思い出してくださるように。そして、それを持って必ず無事に帰って来てくださるように」
 
なんてすてきなセリフなんでしょう!
二人の強欲な(と言っても現代の私たちにとっては至極当然なリクエストですけれど)姉たちの「パラソル」とか「レース」といった物欲的望みと全く違うところから出てくる発想。
モノなんてどうでもいい、父親の無事な帰りのみを願っている彼女の純粋さ(現代と違い旅はとても危険なもので、実際戻ってきたのは彼女の願い通りではある一本のハシバミの枝だけ)。それを「木の枝」に託すなんとなく呪術めいた神秘。
 
こんな古典的なセリフを入れられるのは、やはりシェイクスピア役者であるケネス・ブラナーならではだと思うのです。
 
(村井まや子先生からは、「グリム版では、守護妖精ではなくてハシバミの木がドレスや靴を降らせてくれる」と伺いました。確かにここには呪術的要素があります)
 
そして将来彼女と結婚する王子様は、日常的にこのようなセリフを言われるようになるのだと考えると、なんてロマンチック! 
 
「ではシンデレラ、財務大臣との打合せに行って来るぞ」
「あなた、今朝ことし初めてのツバメを見ましたわ。幸運を大臣にも分けて差し上げてください」
「そうか。伝えよう。(よくわかってないが、なんかイイコトありそうな気がしてくる)」
 
その時代の肉屋夫婦だったら、そんな悠長なこと言ってられないかもしれないけれど、現代に生きる私たちは王族でも食べられなかったアイスクリームも毎食でも召し上がれるのですから、そのくらいの遊びが日常生活にあってもいいはずです。
 
ベストセラー『フランス人は10着しか服を持たない』で思わず笑ってしまったのは、著者のカリフォルニア出身のアメリカ女性が誰もが想像する絵に描いたような西海岸的生活を送っていたこと。この本はパリの現代に生きる貴族のシックな暮らしについて書かれていますが、「アメリカ人ってマジにそんなことやってるの」という対比の方がはるかに興味深かったです。もちろん現代の日本人がどっちに似てるかと言えば、アメリカ人の方ですけど。ジムに通いながらジャンクフードを食べる、家にいる時や近所に出かける時はジャージ着用、いざという勝負の時だけ極端に無理した服を着る。
 
ケネス・ブラナーは英国人なので、フランス人とは昔からいがみ合ってきた仲ではありますが、でも新大陸と旧大陸でどちらが親近感湧くかって、断然後者だと思います。
 
太平洋戦争後、アメリカからの文化的支配を長らく受け続けている日本ですが、『フランス人は10着しか服を持たない』をアメリカ人といっしょに読んでいる場合ではないのです。
キモノを10着も持っていれば帯やら羽織やら雪駄やらアクセサリー類でバリエーションも付け放題、フランス人とはまた違う文化的知恵の全てを、すっかり忘れてしまったように見える日本。もったいない。
 
そして私が感動したシンデレラの父親へのセリフですが、万葉集の昔から夫婦で歌を詠み合っていたのですから、もっと気の利いたことを言えるはずです。
 
ディズニー映画を観て、まさかこんなことを考えるとは思っていませんでしたが、私だったら、旅立つ大切な人に何を願うだろうか。
 
ずっと考えてますが、まだ思いつきません(笑)